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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)2393号 判決 1973年5月30日

控訴人

株式会社アジア旅行社

右代表者

小暮祥夫

右訴訟代理人

長田喜一

被控訴人

中嶋秀雄

右訴訟代理人

栗田盛而

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審においてなした予備的請求を棄却する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金二、八六一、〇六八円およびこれに対する昭和四四年七月一六日以降支払いずみに至るまで年五分の金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、次に付加するほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人は、「予備的請求原因として、被控訴人が、代金の回収のできないことを知りながら、訴外ラス・ゲリーに航空切符を売り渡したのは、故意または重大な過失によるものであり、被控訴人は、右故意または重大な過失によつて、同訴外人から代金の回収を不能におちいらしめ、控訴人に対し金二、八六一、〇六八円相当の損害を与えたものである。」と陳述し、

被控訴代理人は、控訴代理人の右主張はすべて争うと陳述した。

<証拠略>

理由

一、当裁判所は、控訴人の被控訴人に対する販売委託契約中の特約ないし昭和四〇年一〇月八日付念書(甲第一号証)に基づく本訴請求は、理由がないと判断するが、その理由の詳細は、次に付加するほかは、原判決の理由欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決九枚目表二行目の「以上の認定に反する」の前に「前記乙第一号証(社内規定)の10には、『能率給社員はその取扱事務(旅行経費、切符代等)の徴収について全責任を負うものとする。』との規定があるが、この規定の趣旨は、能率給社員はその営業成績をあげ自らの収入の増加を欲するの余り、往々にして支払の不確実な顧客に対し切符を掛売することがあるので、これを戒め、安易な掛売等を防止するにあると解するのが相当である。したがつて、前記認定のように上司たる営業部長の許可を得て掛売をした被控訴人の本件の場合については、右規定の適用がないものといわなければならない。」を加え、同九枚目表二行目の「鹿野格の各証言」の次に「(いずれも原審)、控訴会社代表者小暮祥夫本人尋問の結果(当審)」を加える。

二、次に、控訴人が当審において予備的になした不法行為に基づく損害賠償請求について判断する。

被控訴人がラス・ゲリーに対し本件切符を掛売するについては、上司である取締役業務部長鹿野格の許可を得てなしたものであり、右掛売の残代金が回収できなかつたことにつき被控訴人に故意または過失があつたことを認めることができないことは、前認定のとおりであり(本判決の引用する原判決の認定するとおり)、この認定に反する当審の控訴会社代表者小暮祥夫本人尋問の結果の一部は措信しない。そうすれば、その他の点について判断するまでもなく、控訴人のこの予備的請求も理由がないものといわなければならない。

三、以上により、控訴人の本訴請求はすべて理由がないから、これを棄却すべく、その第一次的請求を棄却した原判決は相当で、控訴人のこれに対する控訴は棄却すべきであり、控訴人の当審において新たになした予備的請求はこれを棄却すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(満田文彦 鰍沢健三 鈴木重信)

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